退職金規程(退職金規定)の見直し
「よそでは、退職金を引き下げて経費削減をしているというので、うちでもそうしよう」
などと安易に考えている社長様がいらっしゃいましたら、要注意です!!!
退職金の廃止や引き下げは労働条件の不利益変更に該当します。労働条件の不利益変更を行うことができるのは、原則として、その変更に同意した者のみであり、変更に反対するも者に変更を強行するためには、その変更内容に客観的合理性があることが必要です。
このように、退職金の廃止や引き下げは、一定の手順を踏まないと無効になります。これ以外にも、退職金をめぐる次のような問題について、近年トラブルが増加しています。
退職金規程(退職金規定)がなければ退職金を支払う必要がないのか?
就業規則や労働協約などに退職金に関する規定がない場合であっても、従業員が退職したときには、退職金を支払うという慣行が成立している場合は、退職金の支払い義務が生じてきます。
また、判例では、退職金に関する規定がない場合であっても、ハローワークに提出した求人票に「退職金あり」の記載をしていたことが原因で、退職金の支払命令が出たケースもあります。
懲戒解雇された従業員に退職金を支給する必要はあるのか?
「懲戒解雇された従業員には退職金を支給しない」という内容を規定していない場合には、たとえ懲戒解雇であっても、退職金を全額支給しなければなりません。
懲戒解雇処分にするところを温情で自己都合退職扱いにした。退職金は?
「懲戒解雇とすべきところを自己都合退職とした場合については、退職金を不支給又は減額する」という内容の規定を定めていれば、退職金を不支給又は減額することが認められるケースがありますが、このような内容を定めていなければ、退職金を支給する必要があります。
懲戒解雇の処分を出す前に退職を申し出た場合は?
懲戒解雇などの懲戒処分については、会社が就業規則に基づき、適正な手続きをとった上で、本人に通告したときから効力が生じることから、さかのぼって懲戒解雇をしたとすることはできません。
したがって、「退職金支給日までに在職中の行為について懲戒理由が発見された場合は退職金を不支給又は減額する」という内容を定めていれば、退職金を不支給又は減額することができますが、このような内容を定めていなければ、退職金を支給する必要があります。
同業他社へ再就職したものがいる。退職金を払いたくないのだが?
ライバル会社に就職したことを理由として退職金を不支給又は減額するという取り扱いをするためには
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労働契約上、競業避止義務が課されていること
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競業を制限する範囲が合理的であること
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退職金規定に退職前・後を問わず競業避止義務に反した場合は退職金を支給しない旨の規定があること
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その違反が過去の功労を抹消又は減殺せしめるほどの重大な背信行為であること
の4つの条件を満たしていることが必要です。
以上のことから、ライバル会社に就職したというだけで、退職金を不支給にするということは認められない可能性が高いです。ただし、この場合であっても、退職金の減額については、就業規則で具体的に規定しておけば可能です。
退職金を大幅に引き下げたいが可能か?
労働条件の不利益変更に当たるため、原則として、労働者の個々の同意(労働組合員については、労働組合の同意)を得れば、実施可能です。
パート・アルバイトに退職金を支給しなくてよいか?
退職金制度を適用する従業員の範囲を限定していなければ、退職金を支給する必要があります。
したがって、パート・アルバイトに退職金制度を適用しないのであれば、その根拠となる規定を就業規則に定めておく必要があります。