パパはサンタクロース
妻と子供が入っている子育てサークルで、クリスマス会を行うことになった。「おかあさんと子供たちで楽しく過ごしましょう」という集まりで、普段は、平日に地区センターの一室を貸し切って、月に1度、活動をしている。
母親たちが、月ごとに順番で司会進行を担当して、工作など子供が喜ぶような内容を決めているのだったが、今回のクリスマス会は「おとうさんも、ぜひ参加してください」ということで、日曜日に予定された。妻からも「なるべく一緒に行って」と言われていたので、一応、予定を空けておくことにした。
もうすぐ12月というある日。今回の企画担当者から、突然、私のもとに「サンタクロースになっていただけませんか?」というメールが届いた。
「今年のクリスマス会は”サンタさんから子供たちにプレゼントを渡してもらおう!“ということになりました。当日参加できるおとうさんに、ぜひサンタ役を引き受けていただきたいのですが」ということだった。衣装も用意するという。
当日出席する父親は、私だけではないだろうに。他にも、引き受けてくれそうなおとうさんは、たくさんいるはずだ。それなのに、なぜ私が?知らないうちに選ばれていた理由が、さっぱりわからない。
実は、このサークルが「父親参加」を企画したのは、これが初めてではなかった。サークル創立から、1年に1~2度「父親参加」の機会があり、私も2回ほど参加したことがあったのだが(以前参加した時は、地区センターでの室内ミニ運動会と、地元農家での梨狩りだった)…。
妻の話によると、以前参加した時の父親の自己紹介で、「高田さんのだんなさんって、優しそうでいいわねえ~」と、他のママさんたちから評判が非常に良かったらしいのだ。
「オムツ替えも離乳食も、子供の世話は一通り全部できます。子育てには自信があります」というようなことを自己紹介で言ったのが、原因らしい。
今となっては「そうだったっけ?」と首をかしげるばかりなのだが。当時は一番最初の転職時期で就職活動中だったため、家にいることが多かった。無職で何も仕事をしていないのに、育児を全て妻にまかせて自分だけブラブラしているわけにもいかないと、自然に、妻と一緒に子供の世話をこなすようになっていた。もしかしたら、そんな状況のことを、少し話していたのかもしれない。
クリスマス会でのサンタ役といえば、大役中の大役だ。引き受けようかどうしようかと迷っているうちに、妻が「せっかくなんだから、引き受けなさいよ」と、オッケーの返事を出してしまった。人の気も知らないで、妻は「去年私が作った、子供用のサンタのマントがあるわ。それを持って行って、みんなが帰った後こっそり”親子サンタ“の写真を撮るくらい、させてもらえるわよねえ」と浮かれている。
12月8日(日)クリスマス会の当日。みんなより早めに到着して、担当のママさんたちと挨拶。「では、打ち合わせを」と目の前に出されたのは、赤に白いふちどりがついた、サンタの衣装。ヒゲまで用意されていた。
これを見るまでは、正直言って、自分がサンタになって子供たちにプレゼントを配る姿など想像できなかったのだが…ここまできたら、仕方ない。観念して、サンタが登場するタイミング、登場の仕方などを、イメージトレーニングした。
サンタの出番は、クリスマス会の終盤ということだった。それまでは、父親として、リトミック(リズム体操)の先生といっしょに子供たちと手をつないで歌やダンスをしたり、クリスマスの三角帽を作ったりして、過ごした。
クリスマス会もいよいよ終わりに近づいた。頭の中では、サンタの演出がバッチリ。学生時代、同級生たちの前でお笑いの真似事みたいなことをやったことはあったが、子供たちの前でこのような大役を経験したことはなかった。ちょっとドキドキしつつ、この機会にチャレンジしてみようと思い、あれこれ構想を練っていた。
リトミックの時みんなで習ったダンスを踊りながら、登場するサンタ。プレゼントの荷物が重くて、踊りながらひっくり返ってしまうサンタ。おどけた仕草に、子供たちは笑ってくれるだろうか。考え始めると、いろいろアイデアが浮かび、ワクワクした。
しかし、リトミックや工作の時間が予想以上にずれこみ、残念ながら、私の持ち時間がわずか10分足らずになってしまった。地区センターの掃除用具入れの中で着替えて、出番を待った。そして、ジングルベルの曲が流れる中、用具入れの中から、扉を開けて登場。
結局、子供たちの名前を1人ずつ呼んで、「元気にお返事できたね」「風邪引かないようにね」などと一言声をかけ、プレゼントを渡すだけになってしまった。しかし、子供たちは、本物のサンタだと思ってくれたようで、瞳を輝かせて私の周囲に集まって来た(0歳~3歳までの子供たちで、まだ無邪気にサンタを信じている年齢なのだ)。
カメラ持参のママさんたちも、寄って来る。流行のカメラ付き携帯も、向けられた。
「サンタさんといっしょに写真を撮りたい人は、どうぞ」という係の声に、出席者のほぼ全員が集まってきたのには、驚いた。
ただ、うちの息子だけは、サンタが登場してすぐに「あれはパパだ」と気づいたようで、後で妻に聞いたところによると、他の子供たちにも「あれ、パパだよ」と何度も繰り返していたらしい。
妻は苦笑いをしながら「パパはトイレじゃない?」「あれは本当にパパかな。似ているけど、違うんじゃない」などと、必死でごまかしたようだ。(妻に「あれはパパじゃないよ」と断言された息子は、終いには自信がなくなり「じゃあ、パパはどこに行ったの?まだトイレなの?」「あのサンタさんはどうやってここに来たの?」とゴニョゴニョ言っていたらしい。)
何はともあれ、クリスマス会が無事に終わり、ホッとした。子供たちからウケをとるのは、次回またということにしておこう。
皆さんのクリスマスはどうでしたか?
今年もあとわずか。来年も、新しいことにチャレンジしていきますので、よろしくお願いいたします。